甘くてポップなお菓子みたいだね

ほら!迷惑よ

人の邪魔になるから
砂、こっちに来なさい

「はーい、ママ」

人の迷惑になることを恐れるママ

そんなママは

同時に

人から迷惑かけられることを
とても嫌った

7月のとある日曜

頭の真上にある太陽は
サンサンと砂を照りつける

待ち合わせ

今日はとても暑い

砂はアイスクリームを片手に
公園のベンチに腰かけている

甘いものが苦手なわたし

でも、なぜか今日は
アイスクリームが無性に食べたくなったのだ

もうすぐ

最愛のダーリンがやってくる

恋の醍醐味は

ただひたすらボ〜ッと・・・

相手を想って

待ってる時間に
あるのかもしれない

なんて

詩人ぶって

アイスクリームを
ペろぺろなめる

公園を行き交う人々は
例外なくみんなのどかだ

休日の自然公園

みんなみんな
自由みたいにみえる

“人に迷惑かけちゃいけません”

大正論

おっしゃる通り

自分のことは自分でやる

責任はすべて自分で引き受ける

自律して!

自立して!

そうしていつしか

なんでも一人でできる気になって

わたしはあなたに迷惑かけず
ちゃんとやってるんだから

あなたもわたしに
迷惑かけないでよね!

なんて

思うようになっちゃった

これは

自分の声のようでいて

心に溶け入る

ママの言葉だったのかもしれない

迷惑かけないでよね!

はーい、ママ
言いつけ通りに

ママって正しい

でもなんだか

そうして生きていたら

自分のなかに
何にもなくなっちゃって

いや

最初から

誰も入れないんだから

はじめっから
からっぽで

ずーっと

そのままになっちゃった

ああ!

今待ち合わせしてる

最愛のダーリンが
いるじゃないかって?

そうね

彼とはよくじゃれあったり
おしゃべりしてるけど

対話したことは
あったかな

甘えたふりはできるけど

本当に甘えたりしないの

だって迷惑になるからね

自分の気持ち
伝えたこともない

だって
お荷物でしょう、そんなの

でも

今日は思い切って
言ってみるの

あ、彼が来た

ドキドキする

本音って

恥ずかしいくらい重たい

「ごめん、ごめん、待った?」

彼は笑いながらそう言った

「ううん、大丈夫よ」

私もニッコリする

一緒に公園を散歩して

最近あった
たわいもない話をして

それから

公園の隅っこにある

喫茶店にはいった

いつものデートコース

この場所は
わたしたちのお気に入り

公園の木陰に
隠れている

秘密基地みたいな
喫茶店なの

ドアを開けて

いつもの席に人が座っていないか
確認する

奥から2番めのテーブル

ここが空いてると

よかったって思う

わたしと彼の場所だから

あれ・・・

なんだぁ

ざんねん

今日は先客ありか

砂は
誰にもわからない程度に

ちょっと口を尖らせた

しょうがないや

私と彼は

今まで座ったことなかった
一番奥の席に腰掛けた

初めて座る席から見回す店内は

なんかいつもと

ちょっと違う感じ

彼はホットコーヒー

私はアイスティーを頼んだ

「こんなに暑いのに
ホットコーヒー飲むの?」

「なんか、あついコーヒーの気分なんだ」

彼は軽快に答えた

しばらく
お茶を楽しみつつ

ときどき会話した

さぁ、さぁ、

勇気を出して

ホントウの関係ってやつを
はじめよう

「あのさぁ、私のこと好き?」

彼はなんともない顔で
「うん、好きだよ」と答える

ちゃんと言わなきゃ

ドキドキする

「わたしのこと負担に思ってね」

彼は私の顔をじっと見たのち

「うん、愛と責任の話だろ?」と
おだやかな顔で言った

ああ

やっと

やっとだ

やっと言えた

ここから

新しい私の

第一歩がはじまる

「お〜い!砂、待った?」

彼が手を挙げて
こちらに向かって走ってくる

「砂?どした?なにボ〜ッとしてんの」

背をかがめて
彼の目が私の顔をのぞきこむ

「ううん、なんでもない!
私も今来たばかりだから大丈夫よ」

砂はあわてて
目をシャンとした

「アイスクリーム食べてたの?
砂が甘いもの食べるなんて珍しいね!」

彼は砂の手元に視線を落として
そう言った

「あ、うん。暑かったから」

砂の手に
溶けたアイスが
筋をつくってこぼれ落ちている

「ちょっと持ってて」

砂はアイスを彼に手渡し

取り出したハンカチで
ベタベタした手をていねいに拭った

彼は空を仰ぎ見ながら言った

「今日はあっついなぁ〜
公園散歩してから
あの喫茶店にでも行く?」

砂は「うん」とうなづいた

ふたりは手をつなぎ

のどかな自然風景が広がる
公園の奥へと向かって一緒に歩き出す

肩と肩がぶつかり合うように
じゃれあう二人の影は

公園の木々のとばりに

見え隠れしながら

やがて小さくなり

点となって消えていった

【 完 】2025.1.29,4:22pm公開